ニシエヒガシエ

140文字に納まらないときに使う場所

第20回中山グランドジャンプ

わたしが初めてJ・GⅠのパドックに行ったのは、2009年の中山大障害のときだった。

かつて「最強世代」とも目されたうちの2頭、キングジョイとメルシーエイタイム

名ジャンパーゴーカイの代表産駒・オープンガーデン。

のちに中山GJを制することになるメルシーモンサンマイネルネオス。

この年J重賞2勝を果たしたテイエムトッパズレ

当時人馬ともに売出し中だったモルフェサイレンス。

翌年志半ばで天に召されたバトルブレーヴ。

などなど。

と、馬名を書き出すだけで今でもワクワクするメンバーだった。

 

わたしにとっては、障害レースのために競馬場に通うようになって、

初めてのJ・GⅠ。

本当に楽しみで楽しみで、かなり前からパドックの最前列を確保していた。

 

それでも、14頭の出走馬がパドックに入ってくるその瞬間にも、

最前列にはまだ多くのスペースが空いていた。

直前の9Rが終わり、しばらくしてからようやく人が集まり始めるパドックを見て、

「障害レースは面白いのに。もっとたくさんの人に見てもらいたい」

と思ったことを、今でもはっきりと覚えている。

 

それから8年4ヶ月が経った、2018年4月14日の中山競馬場

8Rを見届けてからパドックに行き、

その後の移動を見越して馬頭観音前のスペースを確保。

9Rの山藤賞に出走する馬が本馬場入場へと向かっても、

パドック最前列に立っている人がほとんどいなくならない。

それどころか、パドックにやってくる人がどんどん増えていく。

 

10Rの出走馬が本馬場入場に向かった時には、

パドックにはすでに二重三重に人が集まり、そのまま動こうとしなかった。

 

8年前の自分にも、そのまま見せてやりたいと思う景色だった。

 

パドックに集まった人のほとんどが、

オジュウチョウサンアップトゥデイトを目的としていたのだと思う。

 

当初のローテを変更し、ぶっつけで中山GJに臨むオジュウチョウサン

それに対し、前哨戦を制し順調が伝えられるアップトゥデイト

林満明Jとのコンビで臨む最後のJ・GⅠということもあり、

アップがオジュウに勝つならここでは、

という雰囲気が高まっていたのもひしひしと感じられた。

 

そして、ゴール前の空いている席で見守ったレース。

現実はドラマのように綺麗にいくものではない。

オジュウチョウサンは、これまでで最大の着差をアップトゥデイトにつけて、

見事にJ・GⅠ5連覇を飾ってみせた。

3年前にアップトゥデイトが出したレコードタイムを、

3秒6も更新するというおまけつきで。

 

全人馬が無事にゴールするのを見届けた後、

引き揚げてくる各馬を写真に撮りながら、体の震えが止まらなかった。

 

1頭の馬が、他の出走馬に対して、

ここまで完璧な力の差を見せつけることがかつてあったのか、

と考えると、オジュウチョウサンに恐怖すら覚えていた。

 

ただ、他の馬もただされるがままになっていたわけではない。

アップトゥデイトはもちろん、

熊沢Jのクランモンタナや山本Jのマイネルクロップは、

ハイペースの中を必死に前に食らいつこうとしていた。

ニホンピロバロンの白浜Jは、

レース後に「自分の馬が1番強いと思ってレースをした」

とコメントを出していた。

シンキングダンサーの金子Jからは「いつか下剋上したいです」という言葉が出た。

 

障害レースファンの端くれとして、

自分がつい考えてしまうのはオジュウチョウサンの引退後だ。

オジュウチョウサンというスターホースがいなくなれば、

パドックがまた8年前のようにまばらになってしまうのではないかと、

不安に感じてしまうことがある。

彼の強さが際立てば際立つほど、その裏返しの不安は強くなっていた。

 

でも、他のジョッキーたちのコメントを読んで、

「きっと大丈夫」と思えたのも事実だ。

オジュウチョウサンは元は平地の未勝利馬。

障害デビュー戦は1年の休み明けで、大差のシンガリ負けだった。

そんな馬が絶対王者と呼ばれるまでに上り詰めた、

その姿を見て障害に転向する馬も増えるのではないかと期待している。

 

雪辱を果たしたいジョッキーたちとコンビを組んで練習に励み、

そこから第二第三のオジュウチョウサンと呼ばれる存在が誕生して、

障害レースがさらに盛り上がるものになってほしいと思う。

 

年末の中山大障害とその先が今から楽しみ、

と思える第20回中山グランドジャンプだった。